つらい選択

つらい選択


妊娠37週目、健診の最後に、先生が言った。
「来週は骨盤のレントゲンを撮りますね」
と・・・・
こんな時期にレントゲンを撮るなんて思ってもみなかったし、聞いた事もなかったから、不思議に思った。
姉にレントゲンを撮らなくちゃ行けない事を話したら、背の低い人は、骨盤が狭いかもしれないからレントゲンを撮るんじゃないのかなぁと言った。
そして、もしも骨盤が狭ければ帝王切開での出産になるらしい・・・とも言われた。
ガーン。レントゲンの結果次第で帝王切開になるかも・・・・
そう思うと怖くなった。

そして、翌週6月3日、予定日の14日前、健診に行った。
レントゲンの室へ案内されて、上から、横からの写真を撮った。
写真はすぐに出来てきた。
先生はちょっと難しい顔をした。
「るんばママさん、あのねー、写真を撮ったのを見ると赤ちゃんの頭がコレで、骨盤がココなんだけど、あきらかに骨盤より赤ちゃんの頭の方が大きいですねー。赤ちゃんの頭は標準ですので大きすぎてるわけではないんですが、どちらかと言えば骨盤の方が狭いんですよ・・・」
先生は、レントゲンにマーカーをしながら私に説明してくれた。
心臓がバクバクした。手足が震えてきた。涙が出そう・・・
先生は続けて話出した
「それで、こういう場合だと、普通に陣痛を待っての分娩はおそらく99%無理でしょう。赤ちゃんの頭と骨盤の広さが数ミリしか違わないんだったら、もしかしたら
自然分娩でもいけるかもしれないですけど、骨盤がかなり狭いですから、帝王切開で産んだ方がいいと思いますが・・・・」
ちゃんと聞いているはずなのに、頭の中は真っ白、先生の話が耳に入ってこない。
「るんばママさんが、どうしても、自然分娩・陣痛を経験したいと言うんだったら、陣痛が来るまで待って、一度、普通の分娩に挑戦してみて、それでもだめだったら帝王切開に切り替えるという手段もありますけど、多分陣痛は来ないと思うけど・・・・今すぐ返事は出来ないと思うから、家の方とよく相談して、来週にでも返事を下さい。帝王切開だったら、いつでも生まれてきてもいい状態ですから、予定日を待たずに手術できますし・・・」
「分かりました。家で相談してきます。」
声が震えてる・・・・たしか、何ヶ月か前もここで、声を震わせて先生と話した事があった。まさか、こんな宣告を受けるなんて思ってもなかったし、臨月を迎えて、赤ちゃんの誕生を楽しみにしていられるばかりだと思っていたから、こんな予想もしない出来事にパニックになってしまった。
帰りの車の中、やっぱり涙が出てきた。
「ごめんねー、普通に産んであげられないよー、ごめんねー」
帝王切開だって出産には変わりないんだから、ちょっとその方法が人と違うだけだから・・・・と自分に言い聞かせてはいるんだけど、なかなか諦めがつかない。
そして、夜になって、だんなが帰ってきた。
「今日ね、病院でレントゲン撮ったら、やっぱり帝王切開でしか赤ちゃん産めないって言われた。どうしよう」
本当は怖くて、ビクビクしてて、涙出ちゃいそうだったけど、旦那の前、絶対に泣くもんかっ!と思って我慢して、平気なふりをした。
「先生がそう言うんだったら、そうするしかないんじゃないの?お前が自分で決めればいい」
と旦那は言った。
そして、二人で話し合った結果、帝王切開で出産を決めた。

手術の日も決められるという特典つき・・・
旦那のお休みの日も考えて、6月12日に決めた。
手術日が決まってからというもの、考える事は帝王切開の事ばかり・・・
恐怖と不安で頭が痛くなりそう。
傷の痛みや、傷跡の回復のこと、入院中の食事、トイレ・・・考えればきりがない。周りに帝王切開で出産したお友達がいないから、誰にも聞けなくて、本を読めば、それぞれ違った事が書いてあったり・・・
夜もあまり眠れなくなってきて、布団をかぶって、声を出さずに泣いてた。

手術の3日くらい前、私が旦那に言いました。
「お腹、切るといっぱい血が出てくるんだよねー、10センチくらいは切るんだよー。どのくらいの痛みなんだろー、傷跡ってずっとずっと残るのかなー。怖くなって来た。」
ちょっと声がぶるぶるしてる。
「大丈夫だってば・・・オレの連れもこの前お腹切ったけど、わりと痛くなかったって言ってたし、次の日には歩いてタバコ吸いに外行ったって言ってたし、傷跡もあんまり分からんかったぞー。大丈夫だって・・・」
その言い方がものすごく他人事のように聞こえた。
「もっと他に言う事ないのー!怖いって言ってるんだよーっ。そんな、石か何かがたまってお腹切った人と一緒にしないでよー。あんたは自分の事じゃないから、大丈夫、心配しなくても・・・・なんて簡単に言えるんだよ。赤ちゃんの顔、見たいけど、怖いんだよー、お腹切るんだよー・・・・・」
涙がボロボロ流れてきた。
今まで、ずっとずっと、流産するかもしれなかった時から、ずっと旦那の前で我慢してきた涙が一気に出てきた。
なんとも言えない、伝えようのない不安や恐怖に声も体も震えた。
「ごめん・・・・泣かんくてもいいよ・・・・ごめん」
旦那はそう言って、ティッシュの箱をくれた。
よく考えてみれば、男の人に、私のこの気持ちを分かってくれと言うのもヘンな話。どこまで、分かってくれたのかは分からないけど、きっと、普通に産んであげたかったのに、産んであげられない悔しさは分かってくれたんじゃないかなーと思った。

私の出産を楽しみにしてくれてたお友達に、帝王切開の報告をした。
帝王切開と決めてから、もう何日もたってるのに、まだ諦め切れず、お友達には、弱音を吐いてしまった。
私は、みんなが経験してきた、陣痛や、いきみを知る事ができない。将来、私に女の子が生まれて、その子が出産するとき、「出産の時って、どんな痛み?」と聞かれても、答えてあげられない。それが悲しい。
お友達に、励まされて、
「コドモを産む事には変わりない。産んでからはみんな一緒なんだから、頑張れ」
と言われた。
なんとなく、気持ちの整理もついてきて、ようやく事実を受け止められるようになった。
こうになったら、覚悟を決めて、やるしかないっ!


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